2021.07.01

高齢者の不調を発見する|便秘の原因と予防の対策

最終更新日:2022.07.22
東海林 さおり
看護師

高齢者がなりやすい不調のひとつに便秘があります。便秘になると身体だけでなく気分もすっきりとせず、生活を楽しむことが難しくなることもあるでしょう。高齢者の便秘の原因と予防対策について解説しますので、ぜひ参考にしてください。

高齢者が便秘になる原因とは

食事_介護

高齢者は食欲が落ち、食べる量が少なくなって便秘になることがあります。便をスムーズに排出するためには十分な水分量が必要ですが、食事量や水分摂取量が減ったことにより便が固くなり、便秘になるケースもあるでしょう。その他にも、運動量が減ったことで腸などの消化器官の活動が不活発になり便秘になることもあります。また、活動的なときに働く交感神経とリラックス時に働く副交感神経の働きの変化によって、便秘が促進されることがあるということ近年分かってきました。副交感神経が働いているときは腸の収縮が活発になり、排便しやすい状態になりますが、副交感神経は加齢とともに働きが低下するため、高齢者は便秘になりやすいです。さらに、食事内容の変化によって便秘になる方もいます。あまり噛まなくても良いものやのど越しの良いものを好むようになると、食物繊維の摂取量が減り、排便量も減ってしまうこともあるでしょう。

便秘対策になる生活習慣とは

高齢者

生活習慣を見直すことで、便秘を予防対策することができます。便秘対策として望ましい生活習慣を紹介しますので、ぜひ実践していきましょう。

対策1.生活のリズム

睡眠不足による自律神経の乱れは便秘の一因です。できるだけ同じ時間に就寝・起床し、規則正しい生活(生活リズム)を心掛けるようにしましょう。食事の時間も可能な限り同じ時間に取ることで、排便のリズムも一定にすることができます。1日に1回はゆっくりとトイレに行く時間を設けることで、便秘解消につながることもあるでしょう。例えば朝、朝食を食べてすぐにトイレに行く習慣をつけるなら、排便リズムが整い、1日を気分よく過ごせるようになるかもしれません。

対策2.水分摂取

体内の水分量が不足すると便が固くなり、排出されにくくなります。食べたものをしっかりと出すためにも、たっぷりと水分摂取するように心掛けましょう。特に高齢者は喉の渇きを感じにくい傾向にあるため、自然に任せていると水分摂取量が少なくなる恐れがあります。喉が渇いてからではなく、1日に何度も時間を決めて水分を摂取するようにしましょう。水分は食事経由で1日1リットルほど、飲み物として1日1~1.5Lほど摂取することが望ましいとされています。大き目の湯飲みでなら1日に5~7杯、小さめのグラスなら1日に7~10杯ほど飲む習慣をつけましょう。

対策3.食事の量と内容

食事量が減ってしまうと、便の量も減り、すっきりと出ないこともあります。まとまった量の便を出すためにも、食事をしっかりと食べるようにしましょう。また、食事には水分が含まれていますので、食事量が減ると水分摂取量が減り、便が出にくくなってしまいます。ただし、食事なら何でも良いというわけではありません。さまざまな食材を幅広く食べ、栄養バランスに偏りが出ないように注意する必要があります。それに加え、便秘解消に効果的な食材を食べることもできるでしょう。例えばキノコ類やイモ類、野菜には不溶性食物繊維が豊富に含まれていますが、これは腸を刺激して排便量を増やす役割もあるため、便秘が気になる方は意識的に食べることがよいでしょう。海藻やこんにゃくなどに含まれる水溶性食物繊維も便秘解消が期待できる成分です。水溶性食物繊維は便を柔らかくし、スムーズな排便を促します。

対策4.運動習慣

運動をすることで腸の働きを活発にし、排便を促すことができます。便秘解消を目指すためにも、毎日1回は運動する時間を設けることがよいでしょう。ウォーキングやストレッチなどの軽度な運動や、体力がある方はスイミングやジョギングなどのより負荷が高い運動も効果的です。運動習慣をつけることで便秘解消だけでなく健康増進効果も期待することが可能です。より健康に生活を楽しむためにも、運動を始めていきましょう。

対策5.ストレス

ストレスを受けると腸管が緊張し、排便がスムーズに行われないことがあります。また、ストレスを受けると交感神経が高まり、腸運動を活発にする副交感神経が働きにくくなることも便秘の理由と考えられるでしょう。とはいえ、生きていくうえでストレスをまったく受けないことは不可能です。ストレスを受けても上手に受け流して、ストレスを溜めない生き方を目指していきましょう。

便秘に隠れている疾患について

医師

病気によって便秘症状が出ている可能性もあります。例えば便が細く、残便感があるときは大腸がんの可能性が考えられるかもしれません。便秘だけでなくむくみや気力の低下が見られる場合には、甲状腺機能低下症の可能性も考えられます。便秘対策に望ましい生活習慣に変えても便秘が改善しない場合には、医療機関を受診し、何かの病気が原因で便秘症状が出ているのではないか調べてもらいましょう。

便秘薬の使用はなるべく控える

薬

医療機関で下剤を処方された場合は、処方通りに服用することで便秘症状の改善を目指すことができます。しかし、処方量以上に服用したり、市販の下剤を常習的に服用し続けたりすることは控えるようにしましょう。下剤を習慣的に服用することで腸の働きが低下し、腸だけの力で排便することが難しくなってしまうことがあります。また、腸内にある絨毛(じゅうもう)が下剤によって炎症を起こし、栄養素を取り込むという本来の機能を果たせなくなることもあるでしょう。下剤によって腸内に炎症が起こると、大腸がんの発生リスクにもつながることがあります。腸を健康に保ち、がん発生リスクを回避するためにも、下剤の使用はなるべく控えるようにしてください。便秘になると倦怠感を覚えるだけでなく、1日の活力も生まれにくくなります。健康で元気に生きていくためにも、普段の生活から便秘予防を心掛けるようにしましょう。栄養バランスの取れた食事とたっぷりの水分、また、運動や規則正しい生活を実践しても便秘が解消されない場合は、一度医療機関を受診してください。病気を早期発見できれば早期治療が可能なこともあります。

東海林 さおり
看護師

看護師資格修得後、病棟勤務・透析クリニック・精神科で『患者さん一人ひとりに寄り添う看護』の実践を心掛けてきた。また看護師長の経験を活かし現在はナーススーパーバイザーとして看護師からの相談や調整などの看護管理に取り組んでいる。