2023.07.26

在宅看取りで後悔しない為には?体験談を踏まえて学ぶこと

最終更新日:2023.08.30
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

在宅介護の課題のひとつに、「最期をどこで迎えるか」という問題があります。本人は「最期は自宅で」「施設や病院で最期を迎えるのは嫌だ」と考えることが多い一方で、家族としては看取り介護に不安を感じている方もいるでしょう。実際に看取り介護を経験した方々に感想を伺うと、「有意義だった」「大変だった」「在宅看取りを選択したことに後悔した」と様々な感想を得られるのも事実です。

そこで、今回は在宅看取りの体験談をもとに、どうすれば有意義な在宅看取りができるのかを考えていきます。

在宅看取りで後悔したこと

在宅看取りを経験した人の多くが支援してくれた専門職の方々に感謝の言葉を述べています。しかしその一方で、介護の途中や終了後に後悔の念を口にする方が多く存在します。なぜなら、在宅看取りは思い通りに行くことの方が少ないからです。

例えば、医師からの余命宣告どおりに経過しなかった場合や、予想外に費用が高額になってしまった場合、思い通りの緩和治療ができずに本人が苦しんでしまった場合などです。

そこで、実際の介護者が後悔してしまった事例をご紹介します。

※個人が特定されないよう、実際のケースを一部加工してご紹介しています。

体験談① 介護の体制に限界があった

在宅看取り

<本人の状況>

80歳男性 末期ガンによる看取り状態(余命1ヶ月)

妻(68歳)との2人暮らし、子供なし

<概要>

ひとまわり年の離れた夫婦で、二人三脚で商店を切り盛りしていた。かねてから本人が「最期は妻に看取ってほしい、他人に恥ずかしいところは見られたくない」と言っていた。夫の末期がん診断を機に店を閉じ、今まで「支えてくれた夫を、今度は自分が支える番だ」と在宅看取りすることを決めた。

<体験談>

末期ガンのため、訪問看護が介入し麻薬による痛み止めの治療を開始。次第に身体機能が衰え、寝たきり状態になった。「他人から面倒を見られるのは嫌だ」という夫の気持ちを汲み、要介護認定は申請していない。妻はまだ60代のため何とかなるだろうと思っていたが、実際に大柄な夫の介護をするのは大変だった。

余命も一か月との診断だったが小康状態が続く。3ヶ月程が経過した頃、妻の腰痛が悪化して介護不能となった。本人の体にも床ずれができており在宅介護継続は困難と判断した医師の紹介により入院。最終的に病院で他界した。

妻は、自分が一人で抱え込んだことで「最期は家で迎えたい」という本人の希望を叶えられなかったことに後悔した。

体験談② 費用が高額になった

在宅介護費用

<本人の状況>

87歳女性 要介護5 誤嚥性肺炎による終末期

90歳夫との2人暮らし、子供は近隣にいるが疎遠

<概要>

妻はアルツハイマー型認知症で、デイサービスを利用しながら在宅介護を受けていた。

自宅で食事中に誤嚥し総合病院へ救急搬送。治療を終えて帰宅したが認知症の進行と誤嚥性肺炎の再発により体力が低下して動けなくなった。デイサービスからは体調が不安定であることを理由に利用終了を告げられた。

すでに終末期に入ったことから入所できる施設もなく、夫はケアマネジャーと相談して複数の介護保険サービスを利用しながら在宅で看取ることにした。

<体験談>

夫も高齢で妻のおむつ交換や食事介助には限界があるため、毎日2~3時間おきに訪問介護から来てもらい、身の回りの介助をしてもらった。一日何回もこまめのおむつを取り替えるため、おむつ代も高額になっていった。しばらくすると本人に床ずれができたため、訪問看護も導入した。しかし医療保険の対象にならなかったため、次第に介護保険の支給限度基準額を大幅に超えるようになり、多額の自己負担分が発生するようになった。主治医も訪問診療専門医に切り替えたことで医療費もかさみ、ついには貯蓄を切り崩さなければならなくなった。

夫は「お金に糸目をつけている場合じゃない」という想いと、「お金がないと回りから思われたくない」という自営心から金銭面の不安をケアマネジャーに伝えられずにいた。一方、ケアマネジャーも安易に「夫が何も言ってこないから、お金は心配ないんだろう」と考え気に留めていなかった。

妻が他界した後、夫婦が頑張って貯めていた老後資金はほとんど無くなってしまった。

体験談③ 医療面での対応に限界があった

病院

<本人の状況>

91歳女性 要介護5 末期ガン

長男夫婦、孫夫婦、ひ孫1人の6人暮らし

<概要>

過去に大腸ガンの手術歴があったが再発。複数の個所に転移し余命半年の診断を受けた。かかりつけの医師は往診に対応しているが頑固で、患者の希望は聞かないタイプ。長男が「末期でどうせ長くないから、治療は最低限でいい」と主張。「苦痛を取ってあげたい」と考えている長男妻とは意見が食い違っている。

<体験談>

身の回りの世話は介護福祉士の資格を持っている専業主婦の長男妻が担当。本人は病状の進行とともにガンが原因の痛みを訴えるようになった。長男妻はケアマネジャーと相談して訪問看護の導入と同時に看取りに対応した医師への変更を検討したが、長男からの理解が得られずにいた。仕方なく、長男妻はかかりつけ医に痛みを抑えてあげる緩和治療について相談したが、医師からは「長男が拒否しているんだからできない」と断られた。さすがにあまりに苦痛を訴える本人を見かねた長男が緩和治療に同意したが、時すでに遅く本人は間もなく苦痛を訴えながら最期を迎えた。

在宅看取りで後悔しない為にできること

在宅介護

今回は、後悔が残る結果になった在宅看取りのケースについてご紹介しました。

在宅での看取りは残された時間を「住み慣れた我が家で」「大切な家族と共に」過ごすことができますが、家族の介護負担や費用面での負担、いつ訪れるかわからない「死」と向きあわなければならないことがあります。

在宅看取りを理想とする方が多い一方で、不安がある場合は施設入所を考える方もいるでしょう。しかし、実際に看取り状態になってからでは受け入れてくれるところはかなり限られています。

永年、どうやって「死」を迎えるかを考えることはタブー視されてきました。しかし、限られた残りの時間を有意義に過ごしてもらうためには、早い段階から「どこで最期を迎えたいか」「どのような最期を迎えたいか」「そのためにはどんな準備が必要か」を近親者や担当のケアマネジャーと検討しておくことが非常に重要です。最期の限られた時間だからこそ、「自分らしい暮らし」を実現させてあげたいものです。

今回ご紹介した内容が、少しでも皆様のお役に立てば幸いです。

池田正樹
介護福祉士、介護支援専門員、社会福祉士、福祉用具専門相談員、福祉住環境コーディネーター2級 等

大学卒業後、通所介護・訪問介護・福祉用具貸与・居宅介護支援・グループホーム(認知症対応型共同生活介護)・有料老人ホーム・障がい者施設などを運営するNPO法人にて様々な種別の事業所に所属。高齢者支援だけでなく、障害者総合支援法に基づく業務の経験や知識も併せ持っている。事業所の新規立ち上げや初任者研修・実務者研修の設立・運営にも携わる。その後は地域でも有数の社会福祉法人に転職し、特別養護老人ホーム・ショートステイの事業所に所属した。現在は在宅高齢者を支援するケアマネジャーとして約50件を受け持つ。3児の父で、自身の祖父と父を介護した経験もあり、サービス利用者側・提供者側双方の視点を持ち、読者に寄り添う記事の執筆をモットーとしている。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。