要介護者やその家族のの意思を尊重して在宅での看取りを選択した場合でも、「あのとき、ああすれば良かった」という後悔が生まれることがあります。後悔しない看取りのためには、医療との連携が欠かせません。具体的にどのような連携を取れるのか解説します。
目次
在宅での看取りにおける主治医の役割
在宅で医療ケアを受けながら看取りをする場合は、主治医との連携は欠かせません。急に体調が悪くなったときだけ主治医に往診してもらうこともできますが、通常は医療ケアを受けながらの看取りとなるため、定期的に主治医が訪問するスタイルが一般的です。主治医は訪問時に診察や検査を実施し、薬物療法を行っている場合には状態に合わせて処方を変えて投薬するなど、状態に合わせた処置を行います。
往診を受けられる態勢づくり
主治医の往診が済んでいる場合ならば、治療に対する患者の希望や今までの病歴などを把握しているため、在宅医療もスムーズに受けることが可能です。しかし、主治医が往診できない場合には、主治医から訪問診療でできる医療を紹介してもらい、紹介状や診断に必要な画像データ、検査結果などを用意して、在宅医療が滞りなく受けられるようにしておく必要があります。また、急変したときに延命措置を実施するのかについても、要介護者と家族が話し合っておけば事前に主治医に意思表示しておくことができるでしょう。
在宅での看取りにおける訪問看護師の役割
在宅での看取りには、訪問看護師との連携も欠かせません。訪問看護師は医師の指示に従い健康観察から点滴・注射などの医療行為、患者本人や家族の悩みを聞いて適切なアドバイスをすることなど幅広い役割を果たします。また、往診医やケアマネジャーなどの他のスタッフと定期的に連絡を取り合い、患者の状況を共有し、在宅ケアプランの変更・提案することも必要です。訪問看護師は、要介護者と家族が後悔のない時間を送れるように身体面・精神面から継続的にサポートしていきます。
終末期の医療的ケア
病気からの回復が難しいと判断された終末期においては、通常の医療的ケアとは異なるケアが必要になることがあります。特に注意すべきケアについて見ていきましょう。
口腔ケア
終末期になると患者自身が自分でできなくなるため、口腔内でトラブルが生じがちです。また、口から摂取する水分量や食物量が減ることにより口腔内が乾燥し、感染症にかかりやすくなったり口唇に亀裂が入って痛みを感じたりすることもあります。特に口腔カンジダ症や口腔粘膜炎といった疾病や、口臭、舌苔、入れ歯や自分の歯の不具合が起こりやすくなるので、定期的にケアをして良好な状態を保つことが求められます。また、終末期は口腔内の乾燥により、痛みや不快感を覚える方が少なくありません。マスクをしたり、こまめに水を飲んだりすることで、介護者が快適に過ごせるようにサポートします。
褥瘡のケア
寝たきり状態になることで、褥瘡ができやすくなります。身体的に痛みを抱えている終末期において褥瘡が生じると、さらに痛みや不快感が増し、患者のQOL(生活の質)は大いに低下することになりかねません。褥瘡ができてから治療することも大切ですが、可能な限り褥瘡が生じないように日常的にスキンケアを行うことが大切です。定期的に入浴や清拭で皮膚に付着した老廃物や汚れを取り除いて保湿を行い、褥瘡ができにくい状態にしておきましょう。
痰の吸引
点滴を行うことで経口による栄養や水分の補給が減り、痰が出やすくなります。また、自力で痰を排出する力が衰えていくことも、終末期に痰が出やすくなる原因と言えるでしょう。痰が出た場合は吸引することになりますが、痰の吸引も身体には大きな負担を強いる作業です。体力や辛さに配慮して、必要最小限に痰の吸引を行うことが必要になるでしょう。
呼吸困難への対応
呼吸困難があり、なおかつ低酸素血症が見られるときには酸素吸入を行います。また、呼吸困難による苦痛を緩和するために、モルヒネ等の麻酔鎮痛剤を投与することもできるでしょう。
痛みのコントロールと緩和ケア
終末期においては、痛みや苦痛を取り除くといった受け身のケアだけでなく、積極的に安楽な状態で暮らせるように痛みのコントロールと緩和ケアが必要になるでしょう。積極的な延命治療を行わず、身体的や心理的、精神的な苦痛から解放されて人間としての尊厳を保ちながら暮らせるようにサポートすることを「ホスピスケア」と言い、在宅でホスピスケアを受けることを「在宅ホスピスケア」と呼びます。要介護者が暮らし慣れた自宅で最期の時間を過ごしたいと考え、家族も自宅での最期を望む場合は、主治医と話し合った上で、在宅ホスピスケアを選択することも可能です。しかし、終末期において、常に身体や精神の状態が一定とは限りません。また、要介護者の希望が変わることもあるでしょう。そのため、在宅ホスピスケアを実施するときは、いつでも施設でのホスピスケアに切り替えたり延命治療を実施したりできるように備えておくことも必要になります。
延命措置について
回復の見込みがないことが明らかで、延命だけの目的に治療を行うことを「延命治療」や「延命措置」と呼びます。延命措置の主な方法について見ていきましょう。
気管切開
痰を詰まりにくくし、効率的に肺に空気を送るために気管に孔を開けることを「気管切開」と言います。例えば人工呼吸器を装着すると鼻や口に菅を挿入することになるため、長時間装着状態が続くことは大きな苦痛になるでしょう。気管切開して直接空気を送れるようにするならば、鼻や口の不快感はある程度取り除けます。
強制人工栄養
口からの栄養摂取が難しい場合に、菅を使って直接栄養を身体に送り込むことを「強制人工栄養」と言います。強制人工栄養としては、鼻から菅を挿入する「経鼻胃管」や胃に直接送る「胃ろう」、腸に送る「腸ろう」などが一般的です。点滴のように静脈から栄養を送り込むよりは安全性が高く、消化器官を使った自然な消化が期待できます。
人工呼吸器
血液に酸素が送り込めていない状態になった場合に、機械を装着して人工的な呼吸を促すことを「人工呼吸」、また装着する機械を「人工呼吸器」と呼びます。人工呼吸器にはいくつか種類がありますが、気道内陽圧式と呼ばれるものが主流です。気道内調圧式では、機械を通して口元に陽圧ガスを送り、肺が膨らんで酸素を取り込めるようにサポートします。ただし胸郭が広がっていないのにガスを送るため、横隔膜の筋力が低下しやすいという点に注意が必要です。
皮下輸液
点滴で栄養を送る場合は静脈を経由しますが、静脈内にカテーテルや菅を挿入することが難しい場合は輸液剤を皮下に投入する「皮下輸液」を用いることがあります。静脈栄養よりは感染症のリスクが少なく、出血しにくいという点がメリットです。しかし、皮下輸液による栄養は吸収が穏やかなため急性期に用いることが難しく、強い痛みを感じることもあるので注意が必要と言えるでしょう。
延命措置の是非について
延命措置の是非は本人と家族が話し合った上で決定することが必要です。本人と家族が何を希望しているのか、それぞれの希望について聞き取り、リビング・ウイルや意思決定書などの書面を通じて記録しておく必要もあるでしょう。また、どこからが「延命」と考えるかも本人や家族によって異なるため、どのような措置・治療を希望するのか、あるいはしないのかについても話し合っておく必要があります。例えば人工呼吸器を装着することは必要に応じて可能だけれども、気管切開は希望しないというケースもあるでしょう。延命措置の内容を一つひとつ説明し、本人と家族が求めている治療をスムーズに受けられるように把握しておきます。