家族がレビー小体型認知症かも…とお悩みの方は、レビー小体型認知症とはどのような症状か、原因は何なのか、治療方法はあるのかといった様々な悩みを持つかと思います。レビー小体型認知症は、三大認知症の一つで、アルツハイマー型認知症の次に多い認知症です。レビー小体型認知症について理解することで、少しでも家族の気持ちや接し方を理解することができます。こちらの記事では、長年介護施設で認知症の方と接した経験も踏まえて、レビー小体型認知症の症状や原因、検査・治療について詳しく解説します。
目次
レビー小体型認知症とは
レビー小体型認知症 サポートネットワーク -HOME.DLBとはhttp://dlbsn.org/what_dlb.html, (参照 2021-10-28)
レビー小体型認知症とは、三大認知症の一つと言われています。
認知症患者の中で、アルツハイマー型認知症に続いて、2番目に多いのがレビー小体型認知症です。
レビー小体型認知症の原因と症状
レビー小体型認知症の原因は、レビー小体と呼ばれるタンパク質が脳の大脳皮質に広がることで起こります。レビー小体が脳の神経細胞内に現れると、神経細胞が変形したり死滅したりしていき、中枢神経の働きが低下していきます。レビュー小体が現れる原因については、未だわかっていません。
レビュー小体型認知症の初期症状
- ・便秘
- ・嗅覚低下
- ・脱失
- ・レム睡眠行動障害
- ・起立性低血圧
レビー小体型認知症の症状は、「中心的特徴」「中核的特徴」「支持的特徴」の3種類あります。
中心的特徴
「中心的特徴」とは、進行性の認知機能障害です。アルツハイマー型認知症の記憶障害などの中核症状が現れます。初期のころは、記憶障害は目立ちませんが、複雑性注意障害(理解や判断力の障害等)、実行機能障害、視空間認知の障害が目立ちます。
4つの中核的特徴
レビュー小体型認知症の人に良くみられる特徴的な症状として、「中核的特徴」があります。この「中核的特徴」は大きく4つに分けられます。
・認知機能障害
・幻視
・レム睡眠障害
・パーキンソン症状
基本的には、この中核的特徴の中から2つ以上の症状があるときに、レビー小体型認知症と診断されます。では、レビー小体型認知症の具体的な症状や対処方法について紹介していきます。
認知機能障害
認知機能とは、理解や判断、倫理などの知的機能のことです。レビー小体型認知症の場合、知的機能が下がったり、元に戻ったりを繰り返します。そのため、頭がしっかりしている日もあれば、ぼーっとしてしまう日もあります。
認知機能障害の対処方法
① 調子が悪いときは無理をさせずに見守る
認知機能障害は、本人の意思とは関係なく起きるため、調子の悪いときに「しっかりして」など、無理をさせる声掛けはやめましょう。
② パーキンソニズムの悪化に注意をする
認知機能障害とパーキンソン症状(※)が関わりあっていることが多くあります。そのため、動く際には転倒などに注意しましょう。
※パーキンソン症状…動きが硬くなったり、歩幅が狭くなったりする等の症状。
③ 入浴や散歩などは調子が良いときにする
調子が悪いときは判断力が下がっているため、入浴や散歩は危険です。また、大事な話をする際は、調子が良いときを選びましょう。
幻視
幻視とは、現実にはない対象(人や動物、物)を実在すると感じることです。レビー小体型認知症の人の約8割にこの症状が現れます。出現頻度や見る幻視は人それぞれですが、夜間に多く起こると言われています。
幻視の対象方法
① ケアをする人が幻視について理解する
レビー小体型認知症の本人が、見えない誰かと話をしていたり、何もない壁をじっと見ていたりしても、「もしかしたら何か見えているのかも…」とその行動を理解することが出来ます。
② 本人に幻視であることを理解してもらう
レビー小体型認知症の本人は、アルツハイマー型認知症の人に比べて、初期の頃は記憶能力があまり低下していないことが特徴です。そのため、ほとんどの方が、自分が体験した幻視について語ったり、「幻視である」と理解したりすることができます。
③ 幻視について強く否定をしない
本人が幻視について話した際、「誰もいないよ」と強く否定されると、話しても信じてもらえないという気持ちになります。その後、幻視が見えたことや見える辛さや恐怖も話さなくなります。気持ちを抑え込むことにより行動心理生涯 (BPSD)が起こる可能性があります。どのように見えるかや感じるかをよく聞き、本人の思いを理解しようとすることが大切です。
④ 幻視を見てパニックになっていたら、幻視を消す
幻視を消す方法
・手に届く範囲の幻視は触る
・拍手や机を叩くなどの音を立てる
・暗い場所の幻視はライト当てたり電気をつけたりする
レム睡眠障害
レム睡眠障害とは、眠りが浅いレム睡眠時に、急に手足をバタバタ動かしたり、大声で叫んだりすることです。人によって、レム睡眠行動障害に伴う体の動きや表情の変化があります。
レム睡眠行動障害の症状
・話す
・笑う
・大声を上げる
・手足を動かす
・ベッドから飛び起きる
・歩き出す
レム睡眠障害の対処方法
① 声を掛けたり触れたりせずに見守る
無理やり起こすと本人が起きた際に、夢か現実かわからなくなってしまい、混乱したり興奮したりすることがあります。危険であると判断しない限りは、そっと見守ることが大切です。
② 歩き始めたら一緒についていく
立ち上がったり、歩き始めたりした際は、様子を見守りながら一緒に行動しましょう。しばらくすると目が覚める場合があります。
③ 環境を工夫してケガを防ぐ
レム睡眠行動障害が起きている際に腕や足が当たってけがをするケースがあります。そのため、ベッドの周りには物を置かず、ベッドの作にはクッション素材のテープを巻いておくなど対策をしておきましょう。
④ ストレスを減らすようにする
日中のストレスにより症状が悪くなると言われています。人間関係のストレスや暑い・寒いといった環境のストレス等に気をつけましょう。
⑤ カフェインや薬剤などに注意する
睡眠の質を悪くしてしまうカフェインやアルコール、薬剤がないか確認をしましょう。
⑥ 日中は日光に当たる
日光に当たり、セロトニン(睡眠ホルモン)を作りましょう。日光に当たることにより、睡眠・覚醒リズムを調節する作用のあるメラトニンというホルモンの分泌量が夜に増えると言われています。
パーキンソン症状
パーキンソン症状とは、パーキンソン病に見られる運動症状のことです。運動障害により、歩いたり、食べたり、話をしたりするときに、今まで通りにいかなくなり、転倒や誤飲などの心配も出てきます。
パーキンソン症状の特徴的な4つの症状
・筋強剛(筋固縮)…筋肉がこわばる症状
・静止時振戦…じっとしている際に、手足が震える
・姿勢反射障害…バランスを崩した際に、反射的に立て直せず倒れやすくなる。
・動作緩慢、寡動、無動…動作が鈍くなる
この4つの症状により、様々な症状が現れることがあります。
・歩く際に歩幅が狭くなる(小刻み歩行)、床を吸って歩くようになる(すり足歩行)等
・表情が乏しくなり、能面のような顔になる(瞬きの減少)
・抑揚が乏しくなり、小さな声になる(小声)
・舌の力が弱くなり、食べ物を後方に送り込むのが難しくなる(咀嚼障害)
・文字を書いていると徐々に文字が小さくなっていく(小書症)
パーキンソン症状の対処方法
① 恐怖心を理解して一緒に歩く
歩行障害が現れてくると、歩くことへの恐怖心が生まれてきます。その気持ちを理解し、声をかけながら一緒に歩くなど、本人が安心して歩けるような工夫をしましょう。
② 後ろから声を掛けない
「後ろから声を掛けられ、振り向いたら転倒してしまった」ということが良く起こります。方向転換をする際に転びやすくなるため、声をかける際は本人の前側に回ってからにしましょう。
③ つまずかないように環境を見直す
歩行障害により、少しの段差でもつまずきやすくなります。つまずくことは転倒につながる為、部屋の中や庭など良く歩く場所の環境を見直しましょう。
④ 服装に注意する
スカートやズボンなど、裾の長さやデザインにより転倒してしまう場合があります。本人の好みと快適さ、安全性を大切にした洋服選びをしましょう。
⑤ 食事の時は姿勢を整える
パーキンソン症状が現れると飲み込みに不安が出てきます。食事の際は、食べやすい姿勢に整え、誤飲を防ぎましょう。U字型のクッションを背中に当てたり、発泡スチールを踏み台にするなど、工夫をしましょう。
支持的特徴
上記の「中核的特徴」以外にも、心と体に現れる様々な特徴を「支持的特徴」と言います。
この「支持的特徴」は複数の症状があります。
・自律神経症状
・味覚障害
・抑うつ
・薬に対する過敏症 等
レビー小体型認知症が始まる前兆としての症状も含まれているため、支持的特徴の症状に周囲の人や家族が気付くことが大切です。では、支持的特徴の具体的な症状や対処方法について紹介していきます。
自律神経症状
自律神経症状とは、体の臓器の働きをコントロールしている自律神経(交感神経と副交感神経)のバランスが乱れることにより、様々な身体の不調が現れることです。レビュー小体型認知症になると、様々な自律神経症状が現れます。
主な自律神経症状
・便秘
・起立性低血圧
・食事性低血圧
・体温調節障害
自律神経症状の暮らしの中でのケア
① 便秘
・水に溶けにくく、便の量を増やして排便を促す繊維質の多い食べ物を摂る
・ヨーグルト(乳酸菌やビフィズス菌)は腸を刺激して、腸内を活発にする働きがあるため摂取する
② 起立性低血圧
・立ち上がる時は時間をかけてゆっくりと立ち上がる
・寝ている間に血流が下肢にたまらないよう、足を高くして寝る
・水分が不足すると、血液量が減少し症状が悪化する為、水分をこまめに取る
・弾性タイツを履くことで、血液が心臓に戻るのを助け、下肢に血液が溜まるのを予防できる
③ 食事性低血圧
・食事は少量を数回に分けて取る
・食後すぐに立ち上がるのは避ける
④ 体温調節障害
・汗をかいたら早めに着替えをする
・部屋の温度は25度、湿度40~60%に保つ
・外出するときは脱ぎ着がしやすい服装にする
・手足が冷える時は手浴や足浴を10分ほど行う
嗅覚障害
嗅覚症状とは、においを感じる部分の嗅覚に障害が起きて、正常ににおいを感じることができない状態です。レビー小体型認知症の前兆として現れる症状の中でも代表的なものです。
嗅覚障害は症状別に大きく3つに分類されています。
・気導性嗅覚症状…慢性副鼻腔炎・ポリープ・アレルギー性鼻炎によるもの
・嗅神経性嗅覚障害…ウイルス感染・頭部や顔面の損傷によるもの
・中枢性嗅覚障害…頭蓋内の嗅覚経路の障害によるもの
レビー小体型認知症の人は、中枢性嗅覚障害が起こります。中枢性嗅覚障害は、原因なっている疾患の治療により改善する場合もありますが、ゆっくりと症状が進行していくことがほとんどです。
抑うつ
レビー小体型認知症の抑うつは、老年期のうつ病と特徴が似ているため識別が難しいと言われています。
レビー小体型認知症の抑うつ症状
・幻覚や妄想とうつ状態が混在する妄想性うつ病
・不安、焦燥、心気症状が目立つうつ病
・意欲や自発性が低下するうつ病
老年期のうつ病と識別していくには、レビー小体型認知症の特徴的な症状がみられるかどうかを丁寧に確認していくことが大切です。
薬に対する過敏症
レビー小体型認知症の人は、薬に対して過敏に反応します。特に抗精神病薬に対しては、過敏に反応するため、基本的には使用しません。
薬による過敏症状
・過鎮静
・意識障害
・嚥下障害
・自律神経症状の悪化
・パーキンソン症状の出現や悪化
使用をできるだけ避けるべき薬
抗精神病薬 | ・定型抗精神病薬 |
・否定型抗精神病薬(セロトニン・ドパミン拮抗薬) | |
睡眠薬・抗不安薬 | ・ベンゾジアゼピン系睡眠薬、抗不安薬 |
・非ベンゾジアゼピン系睡眠薬 | |
抗うつ薬 | ・三環系抗うつ薬 |
スルピリド | ・スルピリド |
ステロイド | ・経口ステロイド薬 |
抗血栓薬 | ・抗血小板薬 |
・アスピリン | |
β遮断薬 | ・非選択的β遮断薬 |
ヒスタミンH1受容体拮抗薬 | ・H1受容体拮抗薬(第一世代) |
H2受容体拮抗薬 | ・H2受容体拮抗薬 |
糖尿病薬 | ・チアゾリジン薬 |
過活動膀胱治療薬 | ・オキシブチニン |
・ムスカリ受容体拮抗薬 |
検査・診断
レビー小体型認知症は診断が難しい病気です。もしかしたらレビー小体型認知症かもしれないと思う症状があれば、医師に診てもらうことをお勧めします。
病院で行われること
問診は、レビー小体型認知症を診断するために、医師が最も大切にしていることです。問診を受ける前に回答を準備しておくと良いでしょう。
「レビー小体型認知症前兆チェック表」(※問診では、症状が見られた時期を記載する)
1 | 物忘れ、日付を間違える。物の名前が出ず、あれ、それ、ということが増えた。 |
2 | 匂いがしない。匂いがわからない。(例)花や食べ物の香り、料理の焦げ等 |
3 | 3日以上の便秘。あるいは定期的な下剤の服用。 |
4 | 繰り返す立ちくらみがある。 |
5 | 睡眠中に手足が動いて、ベッドから落ちる・隣で寝ている人がケガをする。 |
6 | 不機嫌。イライラ、怒りっぽくなった。 |
7 | 意欲が無くなった。無気力になってしまった。 |
8 | 他人には見えないものが見える。 |
9 | 歩行が遅くなったり、つまずいたり、バランスが悪くなったりする。 |
10 | 手足が震えるようになった。 |
問診・診察を終え、検査が必要だと判断された場合、次のような検査を行います。
・神経心理学的検査…時計の描画テスト、影絵の模範テスト等
・形態画像検査、機能画像検査…CT検査、MRI検査、脳血流SPECT検査等
・神経学的検査…視力や聴力、感覚の検査等
・血液検査…血液に含まれる物質の検査
以上の問診・診察・検査の結果を踏まえ、レビー小体型認知症かどうか診断されます。
治療方法
レビー小体型認知症の基本的な治療方法は、アルツハイマー型認知症と同じく見つかっていません。そのため、認知機能の低下していく速度を少しでも遅くすることや日常生活・社会生活の支障をできるだけ少なくすることを目指して治療が行われます。
レビー小体型認知症の治療方法は、薬物療法・非薬物療法・ケアの3つです。どれか1つを大事にするのではなく、3つ全てについて考えることで、相乗効果が期待できます。
薬物療法
薬物療法とは、薬を使った治療方法です。医師がその人に現れている症状に合わせて、薬を処方します。レビー小体型認知症の薬物療法に使われる薬は、「コリンエステラーゼ阻害薬」です。この薬を服用することで、認知機能障害や幻視、レム睡眠行動障害などが改善されることが多くあります。
非薬物療法
非薬物療法とは、薬を使わない治療方法です。健康の維持、心身の障害の機能回復、生活の質の向上、問題行動の改善などに影響を与えることが出来ます。以下の治療方法が挙げられます。
・リハビリテーション…運動療法、物理療法、日常生活動作練習、装具療法などを組み合わせて行う療法。
・回想法…昔の懐かしい写真、家庭用品等を見たり触れたりしながら、昔の経験や思い出を語り合う療法。
・音楽療法…音楽の持つ力を使って、聞いたり演奏したり、歌ったりする療法。
ケア
ケアとは、認知症を持つ人を含めて、ひとりの人として尊重し、その人の立場になって行動することです。ケアを行うことで、認知症の人の心理的ニーズを満たすことができます。
ケアのポイント
① 積極的に話しかけ、信頼関係を築く
② 相手を理解し、その人に合ったケア方法を見つける
③ 本人の好きなことを話題にして、不快に感じることを極力減らす
症状が出たら早めに医療機関に受診しよう
人は年を重ねれば、必ず老化をしていきます。こちらの記事で紹介した、「レビー小体型認知症」も脳の老化に伴って起きてくることがほとんどです。自分や家族の病気を知ることはより良い暮らしへの第一歩になります。レビー小体型認知症の疑いがあれば、早めに医療機関を受診し、治療方法やケアについて考えていく必要があります。これから続く人生をどのように過ごしていくのか前向きに考えていきましょう。
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多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。