2021.04.30

移動介助|室内用車椅子を効果的に使う方法

最終更新日:2023.01.03
増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

車椅子とは

車椅子

介護や看護の現場で必要不可欠な車椅子。車椅子はその名前からもわかるように椅子に車輪がついていて、移動を楽にしてくれるものです。病院や博物館で車いすに乗っている人を見かけることもあるかもしれません。可能であれば車椅子は室内用と屋外用に分けるのが理想です。車椅子の種類や使い方について紹介しています。

室内用車椅子について

室内用で使われる車椅子と外で使われている車椅子に、明確な線引きがあるわけではありません。室内用の車椅子であっても、道や天候が悪くなければ問題なく外出できるでしょう。ただし、室内用に適している車椅子は、狭い家屋でも動かしやすいように軽量化されています。室内用の車椅子はおおよそ15kg程度で女性や高齢者でも持てるようになっています。また主輪の前後に小さな補助輪がある6輪車は、本体もコンパクトなので、狭い室内でも曲がりやすいように設計されていることも特徴です。手や足の力が衰えていないお年寄りは、フットレストを外して足でこげる低床タイプがおすすめです。手足を使うことで、身体機能を維持することができ、補助輪があるので後方へのけぞる事故が起こりにくい特徴があります。家屋の広さや日常の移動ルートでも適した車椅子は違うので、用途に合ったものを選びましょう。室内と屋外で車椅子を使い分けると、お年寄りの足腰の維持に効果的です。

室内用車椅子の効果的な活用方法

室内用車椅子の使い方は、体の状態や障害等によっても違います。室内用車椅子を効果的に使う方法を紹介します。

ベッドから一人で車椅子に移乗するとき
ベッドから一人で車椅子に移乗

ベッドから室内用車椅子への移乗は、移動介助の場面でも頻繁にあります。まずは移乗するための環境を整えましょう。ベッドから車椅子に移動する前に車椅子を斜め横に置き、50~60㎝ほどあけて反対側に台を置きます。車椅子のフットサポートを上げて、レッグサポートをはずしてください。またアームサポートと、サイドガードをはねあげます。かがんで、台に手を押しながら立ち上がれば車椅子に座ることが出来ます。自分で移動するときもまずベッドに浅く座って、足底がしっかり床についていることを確認してから室内用車椅子に移乗しましょう。

ベッドから介助により室内用車椅子に移乗するとき
ベッドから介助により車椅子に移乗

介助でベッドから車椅子に移乗するときには、介助者が体を支えてからベッドの高さを調節します。姿勢が安定していることを確認してから、肩甲骨を支えて体を密着させましょう。片手で身体を支え、支えた側に重心を移動させて、でん部を浮かすように前に出します。立ち上がるときには、臀部が膝よりも少し上にあると立ち上がりやすくなります。車椅子に近いほうの軸足の延長線上に介助者の足をおいて、車椅子から遠いほうの足は両者の膝が重なるように置きます。介助者と車椅子の利用者が一緒に回転するようにして、ゆっくり移乗しましょう。

トイレでの車椅子介助のとき
トイレでの車椅子介助

トイレで室内用車椅子から便座に移乗する場合は、まず車椅子で浅座りになります。車椅子は前傾した時に壁に当たらないように注意して便座に近づけます。トイレにある横の手すりを押すようにして立ち上がって、縦に持ち換えてしっかりと握りましょう。介助者は斜め前方から支えます。便座に座る方向に回転してズボンと下着を下ろし、ゆっくりと座りましょう。姿勢が安定したことを確認してから扉やカーテンを閉めます。安全を確保するために離れてはいけない場合は、そばを離れないようにしてください。

屋外での車椅子について

屋外用の車椅子は屋外での移動を想定するため、車輪が溝に入り込んだり、段差で動けなくなったりしにくいタイプのものを選びます。特に利用者が自分でこいで進める自走用車いすは、安定感があって段差を乗り越えやすいものを選びましょう。自走用車いすは、駆動輪(後輪)が大きいので、でこぼこ道や坂道、階段に強く、長く乗っていても比較的疲れません。自走できない人も、自走式の車椅子を介助用として使うのが一般的です。難点としては、大きくて重い所ですが、2つに折れば普通車のトランクに入るので、野外でも主にこのタイプが使われます。 車に乗せるケースがあるかどうかや、自宅のどこに置くかを検討してから選ぶのをおすすめします。

外出前に用意すること

屋外用の車椅子を使うときには外出前の準備が必要になります。外出する前に用意することをまとめました。

外出前の介護者の準備
外出前の介護者の準備

車椅子での外出というと、車椅子に乗る人の準備を想定するかもしれませんが、一緒に外出する介護者にも準備が必要です。まず大切なのは両手が使える状態であることです。ハンドバッグやショルダーバッグは車椅子を動かすときに邪魔になります。荷物もあるのでリュックサックのように両手が空いて容量が大きなバッグを使いましょう。リュックの中には水筒、帽子、手袋、排せつケアセット、着替え、タオルなどを入れましょう。車椅子を介助するときには必ず緊急連絡用の携帯電話やスマートフォンを持ちます。また介助するときにかがむこともあるため、極力ポケットは使わずネックストラップなどを使ってください。介助を安全におこなうために動きやすい服装と、滑りにくく歩きやすい靴を選ぶようにします。

外出時の乗用者の服装
外出時の乗用者の服装

車椅子に乗る人の服装や気温や天候を確認して選ぶようにします。雨で出かける場合はカッパを使用します。車椅子用のカッパが市販されているほか、ちょっと大きめのカッパを車椅子に合わせてカットして使う方法もあります。また外出するときはトイレもあるので脱ぎ着しやすいものを選びます。乗用者は、押す人よりも寒さを感じがちです。気温が変わってもいいように、ひざ掛けなども用意しておくと安心です。

外出前の屋外用車椅子チェック
外出前の屋外用車椅子チェック

車椅子で外出するときには、必ず車椅子のチェックを行います。車椅子にトラブルがあれば大きな事故の原因にもなるので、毎回点検するように癖をつけましょう。車椅子でチェックするポイントはブレーキが利くかどうか、タイヤの空気圧、キャスターや車輪の動きがスムーズかどうかです。また座面のクッションが薄くなると乗っている人に負担がかかります。座面には1枚もののしっかりしたクッションを敷きましょう。車椅子のクッションや目立つ汚れがないかどうかも、併せてチェックしておきましょう。

屋外用車椅子の効果的な活用方法

誰でも簡単に使えるように思われがちな車椅子ですが、使いこなすためにはテクニックが必要です。効果的な活用方法を紹介します。

走行中の注意点
車椅子走行中の注意

車椅子で走行するときには、介助者は車椅子の真後ろに立って、グリップをしっかり握ります。乗っている人はアームサポートを握って足はフットサポートにのせておきましょう。介助者は、フットレストに足が乗っているかを時々前に回って確認しましょう。また、手や福、ひざ掛けを車輪に巻き込まないように注意しましょう。両肘は、アームレストより外側に出てはいけません。また車椅子はいきなり動かすのではなく、動かす前には必ず声を掛けます。車椅子を押す速さはこれでいいかどうか、常に乗る人に尋ねましょう。走行中は前後左右に注意しながらゆっくりと押してください。乗り降りや車いすから離れる時は、必ずブレーキをかけましょう。

段差を越える際の操作
段差を超える際の車椅子の操作

外出中に困るのは、ちょっとした段差です。車椅子で段差を越えるときには、段差に対して車椅子を正面に向けます。介助者はグリップを押し下げながら、ティッピングレバーを片足で踏んで、前輪を浮かせましょう。バランスを保ちながら車椅子を前進させて、ゆっくり前輪を段差に乗せます。最後に後輪を押し上げます。20㎝くらいの段差なら、楽に超えることが出来ます。段差を降りるときには車椅子を後ろ向きにして後輪から降ろします。ティッピングレバーを踏んで、前輪を浮かせてからゆっくり下がって乗っている人の足が段差にぶつからないように前輪を下ろしましょう。

理想的な車椅子とは

車椅子

車椅子を使用する環境や使う人の身体状態によっても最適な車椅子は違います。理想的な車椅子とは、使う人や環境に合わせて選ぶ車椅子です。車椅子にはすでに組みあがっているスタンダードタイプの車椅子のほかに、座面高や車輪サイズ、座幅を選べたり、グリップの高さや車輪の位置が変えられることやアームレスト(※1専門用語あり)やフットレスト(※2専門用語あり)が外れたりするモジュールタイプの車椅子があります。モジュールタイプの車椅子は利用する人の体型や障害等に合わせて用意することができるので、外出するために最適な選択肢の一つでしょう。オーダーメイドするよりもリーズナブルで、利便性が高い車椅子です。また、自走できない人の車椅子も様々な種類があります。介助用車いすは、駆動輪が小さくハンドリム(※3専門用語あり)もないため、小型で軽量です。ティルト機能付き車椅子は、バックレスト(※4専門用語あり)とシートの角度を変えずに後ろに倒すことが出来ます。リクライニング式車椅子は、バックレストが長く、寝たまま後ろに傾斜することが出来ます。要介護度が高い方でも、外出して、生活を楽しむことが出来るでしょう。

※専門用語解説

1.アームレストは肘掛け。2.フットレストは足を乗せる部分。3.ハンドリムは手でこぐ時に使用する後輪に付いている外側のリング。4.バックレストは背もたれ。

車椅子は用途に合わせて購入するのが理想

車椅子の購入

車椅子は高価なもの、機能が豊富なものが最適とは限りません。車椅子を選ぶときには、どんな時にどんな用途で車椅子を使うのかをシミュレーションしてみてください。室内で使うのか、旅行やお散歩用にしたいのかによって最適な車椅子は違います。また車椅子に乗る人だけでなく、介助者にとっても使いやすいかどうかを比較検討して選ぶのをおすすめします。それぞれの家庭に合った車椅子を選びましょう。

増田 高茂
社会保険労務士 介護支援専門員 介護福祉士 第二種衛生管理者

多くの介護事業所の管理者を歴任。小規模多機能・夜間対応型訪問介護などの立ち上げに携わり、特定施設やサ高住の施設長も務めた。社会保険労務士試験にも合格し、介護保険をはじめ社会保険全般に専門知識を有する。現在は、介護保険のコンプライアンス部門の責任者として、活躍中。